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2009年9月16日水曜日

今こそ知りたい自衛隊の実力 / 別冊宝島編集部 [★★★★★]

 

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今こそ知りたい!とありますが、この本はちょっと古くて2000年1月1日に第一刷が発行されたので、今から9年前の自衛隊の実力という事になります。

この時期の日本は、1998年のテポドン1号の日本上空横断や、1999年3月の能登半島沖不審船事件など、北朝鮮の脅威が明確化し、世論は緊張状態にありました。その後も幾度も国防上の問題に直面しましたが、緊張は9年たった今も継続中といっても過言ではなく、「今こそ知りたい!」は現在も「今こそ」です。
軍隊の実力はそう早く劇的に変わるものではないので、今読んでも意味のある内容だと思います。

巻頭には付録で報道カメラマン宮嶋氏による自衛隊の訓練の様子を撮った写真が載っています。過酷な訓練にも同行する熱血肌の宮嶋氏の独特な文章と、密着取材の果てに撮られた写真は見ごたえがあって面白いです。

内容は、他国が攻めてきた時の対応と、自衛隊の行動限界に焦点をあてて書かれています。自衛隊の兵器や隊員の実力はもちろんのこと、法整備に関する検討もされています。武装船が襲来したらどうなるか、破壊工作部隊が侵入したらどうなるか、などいろんな場合を想定したシミュレーションが面白いです。

読んだ感想は、自衛隊そのものは頼もしいものがありますが、法や政府、世論、マスコミが国防に向いてないと思いました。情報収集処理能力は1990年代まではかなり貧弱でしたが、現在は能力が向上し、合理化が進んでるようです。

有事になったら一般市民がどうこう出来るというわけではありませんが、世論を構成する一個人として、現状を把握するには十分な本だと思います。自衛隊豆知識もかなりたまって面白かったです。

2009年7月21日火曜日

hon:「理系」という生き方 理系白書2/毎日新聞科学環境部 [★★★★★]

DVC10091この本は「理系白書」の続編として2007年に 出版されました。前回のテーマは「理系は報われているか」と題して、理系の現状にスポットを当てましたが、今回は「文系、理系の壁」がテーマです。文理分けは、早期に専門性を身につけるには有力ですが、視野が狭まり、また思わぬレッテルを貼られることになり、時間が経つにつれその弊害はましていきます。この本では、その文理の壁を壊す試み、また文理に縛られず生きている人を紹介しています。

第一章は「文理分け教育」です。高校での文理分け教育は1970年前後に始まったそうです。それ以前にも文理分けはありましたが、文系理系に関わらず、幅広く学ぶことが要求されていました。
しかし、大学の大衆化にともない、入試の軽量化が始まりました。高校は進学実績を上げたいので、その軽量化により特化した教育、つまり無駄な教科を排除した明確な文理分けを行うようになります。高校受験生も、効率的な大学受験のため無駄のない学校を選びます。こうして合理化が進み、日本の文理の壁は厚くなっていきました。この現象がエスカレートした末に起きたのが2006年問題となった高校の未履修問題です。

受験における”無駄”を学ばなかった悪影響として、天動説を信じる文系と日本語の下手な理系について事例がのっています。他にも様々な例がのっていますが、安易な文理分けの危うさがかなり伝わってきます。

しかし、文理の壁は障害にはなりますが、乗り越えられないわけではありません。文系社会で生きようとする元理系人の事例も多数紹介されています。理系の文系就職は今や一般的となり、東京工業大学では学部卒の20%が金融や、商社、サービス業に就職しているそうです。また、理系出身の社長も増加し、毎日新聞の調査では主要企業の3割が理系社長とのことです。その理系社長のとして伊藤忠商事の小林社長、キリンビール荒蒔社長への取材内容が書かれています。

このほか、ポストドクター問題、科学技術教育を見直す試みなど、理系のこれからについてが書かれています。

前回の理系白書は、本職理系人についての本といった印象でしたが、今回の理系白書2は若者、学生向けの内容になっている感じがしました。これからどう選択して生きていくか、いいヒントになりました。理系白書もオススメですが、2は是非学生の人に薦めたいです。

2009年7月19日日曜日

hon:理系白書/毎日新聞科学環境部[★★★★★]

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読めば日本の現在の理系事情が全て分かるといっても過言ではないと思います。今話題の事が取り上げられています。また、取材や統計情報量が多いので、かなりの力の入れようを感じます。

まず、「文系の王国」と日本を揶揄した章から始まります。日本のトップには文系出身者が圧倒的に多いからです。この状況は適材適所の結果なのかもしれませんが、国際競争が激化するとその偏った体質は損を生みます。

例えとしてこの本ではアメリカと日本の違いを挙げています。アメリカは、1957年に大統領の科学補佐官のポストを作り、今日まで頻繁に科学技術や政策を大統領に進言してきました。だからアメリカは科学技術に関する国家戦略が先進的だったのです。一方日本政府はつい最近2001年に内閣府に総合科学技術会議が設置されるまで、科学知識皆無で政策を行ってきました。最近はようやく科学的国策が増えてきましたが、日本を指揮する中央に理系が少ないという状況は国際競争の場で多くの遅れをとりました。

一方、面白い事に、中国共産党執行部は全員が理系です。文化大革命で文系大卒のエリートは糾弾されるか地方にとばされた結果らしいです。

また、日本の理系人はいろいろ可哀そうな状況にありますが、生涯賃金では特に恵まれていません。この本ではある国立大卒の理系と文系の年収比較を行っています。それによると、若い世代の平均年収では理系は勝ってますが、生涯賃金となると、文系の方が家一軒分=5000万円 理系を上回っています。理系人が出世しにくいのも大きな要因の一つとなっています。上場企業社長で、欧州はその50%ほどが理系出身者ですが、日本はその3割程度と特徴的です。国会議員に至っては、全体の2割しか理系出身者がいません。

青色発光ダイオードで一躍時の人となった中村修二氏についても書かれています。中村氏は青色LEDを開発し、勤めていた日亜化学工業それを利用して急成長、2002年には売上高1000億円にまでになりました。しかし、中村氏が受け取った報酬は2万円。国際学会でついたあだ名は「スレイブ・ナカムラ」だったそうです。相当の対価を求めて日亜を訴えた中村氏に対して、当時日本では金の亡者だ云々カンヌン寄りの調子でしたが、発明した者にそれ相応の報酬が認められるのは当たり前のことです。アメリカではそういった習慣が既に根付いていますが、日本でもこの一件から企業が発明者に支払う報奨金制度の待遇が改善しつつあります。

その他増えるポスドク問題、理系離れ、女性研究者、大学発ベンチャー、文理融合など「白書」の名にふさわしく、今の理系にまつわる話題が詳しく分析されています。

最後に、付録で「各分野の理系出身者」というのが載っているのですが、そこに「阿部寛 (タレント)」と書いてあったのが意外で面白かったです。あとBzの稲葉さんも理系出身らしいです。

2009年7月17日金曜日

hon:技術大国・日本の未来/西澤潤一 [★★★★☆]

この本は、1993年 に書かれました。技術大国・日DVC10089
本の立場は確固たるものになり、バブルでアメリカが戦々恐々とし、まさに日本人の心までもバブってた時期です。といってもその頃僕には恐竜戦隊ジューレンジャーバブルが訪れていたので、世論の事など全く分かりませんが。

ともかく、そんなマスコミ・世論ともに技術大国ニッポンと驕り高ぶってることに嫌気がさした筆者が、喝を入れるために書いた、そんな感じの本です。何しろ序章の題が「日本の科学技術は21世紀までもたない」ですから、この本がどんだけ辛口かが分かると思います。しかし、西澤氏は東北大学総長を務めた経験のある、間違いなく日本の科学技術の最先端に居た1人です。ご自身の経験から喝を入れているので、どんな辛口もかなりの信ぴょう性があり、こりゃ日本やばいな、と思えます。

面白いと思ったのは、日本の科学技術の急速な発展の謎です。これについて、欧米諸国からの技術供与はもちろんの事ですが、そういったものが一切なくとも、「この技術は実現できる」という事実だけでも多大な影響を及ぼすと述べています。どんなに難しいものでも、「出来る」まではかなりの試行錯誤と忍耐、疑心が付きまといますが、「出来る」と分かればその方向に向かって何も考えず猛進できるからです。後発である日本はその点有利でしたが、表面上アメリカと肩を並べるようになった日本は何を追いかけるのか、地位を維持できるのか、憂うのも当然の事です。

また、喝ばかりではなく、未来はこうなる!といったことまで言及しています。青色LEDや日本の半導体産業など出てくるので興味深いです。
アメリカの科学技術衰退を予想するなど、様々な”予言”も登場します。

15年位前の本なので、今と照らし合わせてみるとかなり面白く読めます。また、理系人としての姿勢、どうあるべきなのかが目が痛くなるほど書いてあるので、その道の人には是非オススメしたいです。

2009年7月16日木曜日

hon:いま知りたい「異常心理」入門/別冊宝島編集部[★★★★☆]

DVC10088 特に今知りたくなくとも、おすすめです。何気にこの表紙が凄い気に入ってます。この表紙のためだけに買っても損は無いと思えます、僕は。このこっちを見てる目がイカしてます。異常心理の文字の感じもいいです。思わず入門したくなります。

内容は、統計や実在する事件を元に、様々な異常心理について記述されています。あまり人付き合いを良くする系の教訓は得られませんが、「あぁ、世の中にはこういう人も居るんだ」という心構えを形成するのにいいです。

みんな違ってみんないいとはよく言いますが、この本を読むと、みんな何かしら異常を抱えているんだなと思えます。おそらく、正常だと思った自分にも,異常心理に通じる部分があると認識するはずです。そう思ったときに、この表紙の目を見ると、またいい感じになります。いろんな意味でオススメです。

2009年7月8日水曜日

hon:ルポ精神病棟/大熊一夫著 [★★★★★]

DVC10073 今回はこの「ルポ精神病院」を紹介します。その名の通り、著者である大熊一夫氏が精神病院に潜入し、その実態を詳細に記しています。なかなか精神病院というのは身近ではないので、この本を読むまで、正直偏見じみたものをもってました。そもそも精神病院と言うと、データがターミネーター2しかありません。「患者が暴れまわってて怖い、マッチョな人が監視してる」くらいしか知識がありませんでした。しかし、この本を読んで180度考えが変わりました。180度と言うのは、怖いのは患者の方ではなく、患者を診る側だということです。精神病院は全てが診る側に管理されているので、その裁量次第で患者はどうにでもなるということです。ただし、この本の初版は1981年であり、現状は分かりません。この本は当時、相当なセンセーションを巻き起こしたので、もしかすると改善されているのかもしれませんが。

とにかく、このルポの凄いところは著者が病院に潜入取材を試みているところ。どのように潜入するかと言うと、その方法が大胆かつ直球。自分がアルコール中毒の振りをして、医者から正式に精神病院への入院を認めてもらう、というものです。
普通なら、そんな嘘すぐに見抜かれる、と思いますが、なんと即認められてしまします。著者は前日と朝に大量のアルコールをワザと飲んだだけなのに、です。引用するとこんな感じです。

―酒やけもしていないのに、はたして入れてくれるだろうか。もっと周到に、アル中のしぐさを勉強すべきではなかったか……。(中略)車にゆられたら急に酔いが回ってきた。吐いた。運転手の迷惑そうな目。酒を飲んで吐くような弱々しいアル中なんて。あやしまれないだろうか……。
(中略、医者に診てもらう)医師が懐中電灯で私の目の玉を照らし、中をのぞいた。
「こりゃー飲んでる。入院だ、入院だ」
一分たらずの診察の結果、白衣を着た屈強な男に抱えられて奥へ連れていかれた。妻が私のあとを追おうとしたら、金切り声が飛んだ。
「ここから先は、家族の方はご遠慮くださいっ」―

著者は精神病院に入り、初めて悲惨な実態を目の当たりにします。読んでいて、正直監獄よりひどいと思いました。病院の受付はとても綺麗なのに、そこからは想像もできないような、人間の生きていく場所ではないような別世界が、厚い金属の扉を隔てて存在していたのです。もちろん外のものは中の様子を知ることができません。患者が面会に来た人に訴えようにも、病院側にうまくいいくるまれてしまいます。精神病院という性質上、患者がおかしなことを言ってる、で片づけられてしまします。

患者は医者が退院を許可するまで、外へ出ることが出来ません。患者は少しでも反抗すると「電パチ」と呼ばれる電気ショックをうけます。これを何回もうけると脳に影響がでて人が変わります。強く反抗するとロボトミー手術、前頭葉の部分切除を受け、前の自分には戻れなくなります。ある医者は製薬会社と組み、通常より高値で薬を仕入れ、患者を薬ズけにして、利ざやで私腹を肥やしていました。この様を、「精神病院は牧畜業者だ」と言う人もいます。

ここで紹介しきれないほど多くの問題をこの本ではとりあげています。また、著者は、これは一部の悪徳精神病院の話ではなく、ごく一般的な病院でのことである、としています。

30年も前の話ということもあり、現在はどうなってるのか分かりませんが、逆にいえば30年しかたっていません。是非読むことをお勧めします。かなり衝撃的でした。

2009年7月7日火曜日

hon:東大落城/佐々淳行著 [★★★★★]

honでは僕が読んだ本で面白かったものを紹介していこうと思います。第一回目は僕が尊敬する佐々淳行氏が書いた「東大落城」です。

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佐々淳行氏は「危機管理」という言葉を作った人で知られ、日本の安全保障の近代化に尽力されました。あさま山荘事件、東大安田講堂事件を指揮したことでも知られています。この本では、その東大安田講堂事件について、自身が陣頭指揮した経験をいかして、生々しく記されています。

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当時の貴重な写真もあります。

この事件は全共闘が東京大学本郷キャンパスを封鎖して立てこもった、いわゆる学園紛争です。放水車、火炎瓶、投石、大学内の劇薬など、なんでもありの大激闘だったようです。ちなみに、事件が起こった1969年の東大入学試験は中止され、次年度の入学者は0人となっています。

この本を読んで興味深かったのは警察、機動隊の苦悩が垣間見れた事です。はじめは全共闘vs警察だったのですが、次第に面白半分の若者が暴れだし、世間の風潮も「警察は若者をいじめている!」となり、警察は四面楚歌状態だったそうです。それでも佐々氏指揮のもと、バリケードを攻略していきます。

警察は様々な作戦を立て、全共闘に挑戦していきますが、中でも面白かったのは「大学付近のコンクリート平板を早朝のうちに全部はがせ」という作戦です。これは、学生が警察に投石するのを防ぐためで絶大な効果を発揮しました。

佐々氏の文才もさることながら、さすが第一線で指揮していただけあって、記述が細部にわたっていて、不謹慎ですが、当時を知らない人間でも読んでて非常にドキドキさせられました。オススメです。

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