今回はこの「ルポ精神病院」を紹介します。その名の通り、著者である大熊一夫氏が精神病院に潜入し、その実態を詳細に記しています。なかなか精神病院というのは身近ではないので、この本を読むまで、正直偏見じみたものをもってました。そもそも精神病院と言うと、データがターミネーター2しかありません。「患者が暴れまわってて怖い、マッチョな人が監視してる」くらいしか知識がありませんでした。しかし、この本を読んで180度考えが変わりました。180度と言うのは、怖いのは患者の方ではなく、患者を診る側だということです。精神病院は全てが診る側に管理されているので、その裁量次第で患者はどうにでもなるということです。ただし、この本の初版は1981年であり、現状は分かりません。この本は当時、相当なセンセーションを巻き起こしたので、もしかすると改善されているのかもしれませんが。
とにかく、このルポの凄いところは著者が病院に潜入取材を試みているところ。どのように潜入するかと言うと、その方法が大胆かつ直球。自分がアルコール中毒の振りをして、医者から正式に精神病院への入院を認めてもらう、というものです。
普通なら、そんな嘘すぐに見抜かれる、と思いますが、なんと即認められてしまします。著者は前日と朝に大量のアルコールをワザと飲んだだけなのに、です。引用するとこんな感じです。
―酒やけもしていないのに、はたして入れてくれるだろうか。もっと周到に、アル中のしぐさを勉強すべきではなかったか……。(中略)車にゆられたら急に酔いが回ってきた。吐いた。運転手の迷惑そうな目。酒を飲んで吐くような弱々しいアル中なんて。あやしまれないだろうか……。
(中略、医者に診てもらう)医師が懐中電灯で私の目の玉を照らし、中をのぞいた。
「こりゃー飲んでる。入院だ、入院だ」
一分たらずの診察の結果、白衣を着た屈強な男に抱えられて奥へ連れていかれた。妻が私のあとを追おうとしたら、金切り声が飛んだ。
「ここから先は、家族の方はご遠慮くださいっ」―
著者は精神病院に入り、初めて悲惨な実態を目の当たりにします。読んでいて、正直監獄よりひどいと思いました。病院の受付はとても綺麗なのに、そこからは想像もできないような、人間の生きていく場所ではないような別世界が、厚い金属の扉を隔てて存在していたのです。もちろん外のものは中の様子を知ることができません。患者が面会に来た人に訴えようにも、病院側にうまくいいくるまれてしまいます。精神病院という性質上、患者がおかしなことを言ってる、で片づけられてしまします。
患者は医者が退院を許可するまで、外へ出ることが出来ません。患者は少しでも反抗すると「電パチ」と呼ばれる電気ショックをうけます。これを何回もうけると脳に影響がでて人が変わります。強く反抗するとロボトミー手術、前頭葉の部分切除を受け、前の自分には戻れなくなります。ある医者は製薬会社と組み、通常より高値で薬を仕入れ、患者を薬ズけにして、利ざやで私腹を肥やしていました。この様を、「精神病院は牧畜業者だ」と言う人もいます。
ここで紹介しきれないほど多くの問題をこの本ではとりあげています。また、著者は、これは一部の悪徳精神病院の話ではなく、ごく一般的な病院でのことである、としています。
30年も前の話ということもあり、現在はどうなってるのか分かりませんが、逆にいえば30年しかたっていません。是非読むことをお勧めします。かなり衝撃的でした。
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